コーポレートガバナンス・コードの改訂に関するパブリックコメント
一般社団法人コーポレート・アクション・ジャパンは、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂に関するパブリックコメントを、金融庁及び株式会社東京証券取引所に対して提出いたしました。私たちは、今回の改訂によるCGコードの「プリンシプル化」の方向性には賛成するものの、それが真に機能するかどうかは、取締役会が「経営判断の妥当性」に対する監督責任を自律的に果たせるかどうかにかかっていると考えています。その実効性を担保するため、本パブリックコメントにおいては、以下の三点を原則に明記するよう提言しています。
- 独立社外取締役の役割の明確化
- 独立社外取締役の選任プロセスの開示
- 各取締役の活動実績の個別開示
本コードの改訂案においてこれらの具体的項目を明文化することは、真のコーポレートガバナンス(実効性ある企業統治)の実現、延いては持続可能な脱炭素社会の推進に資するものと私たちは考えます。
提出したパブリックコメントの全文は以下の通りです。本件に関してお問い合わせをご希望のメディア・機関投資家関係者の皆様は、こちらからご連絡ください。
コーポレートガバナンス・コード改訂案に対する修正提言
1.提言の主旨
本改訂案において、補充原則の再整理および「解釈指針」への規定移管を通じた「プリンシプル化」は、コードの趣旨に立ち返るものとして首肯できる。しかし、実務上の詳細な規定がコンプライ・オア・エクスプレイン(C&E)の対象外となることは、企業の情報開示を後退させ、ステークホルダーから見たコーポレートガバナンス(CG)の実質化を遅延させるリスクも孕んでいる。このリスクを回避するための不可欠な対策は、CGの本質が取締役会による「経営判断の妥当性」に対する厳格な監督(監査)機能の確立にあることを再確認することである。コードが簡素化される今こそ、取締役会は人的資本(Talent)、経営戦略(Strategy)、リスク(Risk)の三要素(TSR)が統合的に機能しているかをかかる視点から自律的に監督し、その実態を自らの言葉で株主へ語る責務を負うべきである(McNabb et al., 2021)。
2.具体的な意見と提言
(1)原則4−8への賛成意見
コーポレートガバナンス・コードは、従来から独立社外取締役の役割を「助言」に限定してはいなかった。しかし、これまでの実務においては経営陣へのアドバイスに偏重しがちであったのも事実である。「助言」への偏重は、個別的・限定的な関与に終始しやすく、ガバナンスの本質である「経営陣の不作為を律する規律」として機能しにくい。本改訂案の原則4−8において、「経営陣の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと」が第1項に繰り上げられた点は、こうした実務上の誤解を解き、客観的な立場から経営陣を厳格に律する「戦略的な監督者」としての真の役割をより鮮明に規定するものであり、強く賛成する。
(2)原則4−3への加筆提言
提言: 取締役会全体がCEOの選解任に対する受託者責任を負うことを前提とした上で、中長期的な企業価値を毀損していると判断される有事の際、客観的な立場にある独立社外取締役が株主の利益を守る立場から、「CEOの解任に関する議論を主導的に提起(発議)する役割」を担うべきであることを、原則本体に明記すべきである。
理由: 組織内部の力学に制約されない客観的な監督を機能させるためには、独立した者が議論の端緒を開くことが実効性の鍵となる。一般社団法人日本取締役協会(2026)が、CEO等の交代の決定を独立社外取締役の「最大の使命」と位置づけている通り、有事において忖度なく議論を切り出す役割を社外取締役の明確な責務として再定義すべきである。
(3)原則3−1、4−9、4−11への加筆提言
提言: 独立社外取締役の候補者選定において、企業がその具体的な選任プロセスを開示し、投資家による実質的な独立性の検証を可能にさせるべきである。
理由: 中西(2024)が指摘する通り、監督対象である経営トップの紹介等で候補者を選定する場合、監督の形骸化を招くおそれがあり、これが忖度を生む構造的要因となり得る。この課題を克服するためには、単に属人的関係を排除するのみならず、選任プロセスを徹底して透明化し、投資家が経営陣との客観的な距離(心理的な独立性)を検証できる仕組みを設けることが不可欠である。
(4)原則4−13への加筆提言
提言: 各取締役が戦略・リスク等の重要課題に対し、どのような具体的貢献(問題提起、是正勧告等)を行ったかという「活動実績の質」を企業に個別に開示させるべきである。
理由: 取締役会に求められる主たる監査機能は、「経営判断の妥当性」に対する実質的な監督である。しかし現状は、取締役会の構成要件を満たすといった形式面の整備に終始し、監督の「質」が不透明になりがちである。この形式主義を打破し、株主が個々の貢献実績に基づいて「監督の質」を検証できるようにすることが、ガバナンスの実質化には不可欠である。
3.総括
今回の改訂によるコードの「スリム化」を成功させる鍵は、取締役会が「経営判断の妥当性」に対する監督責任を自律的に果たせるかどうかにかかっている。その実効性を担保するため、本コードの改訂案には以下の3点を原則に明記すべきである。第一に、独立社外取締役が有事においてCEO解任の議論を提起する「責務」である。第二に、企業が独立社外取締役の選任プロセスを開示し、投資家がその実質的な「独立性」を検証できる仕組みである。第三に、企業が各取締役の具体的貢献を開示し、株主が「監督の質」を評価できる制度である。本コードの改訂案においてこれらの具体的項目を明文化することは、形式主義を排した真のコーポレートガバナンスの実現に資するものと考える。これにより、実効性ある企業統治への移行を強く求めるものである。
References
一般社団法人日本取締役協会. (2026). コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する提言.
中西和幸. (2024). 今日における役員指名に関するガバナンスと監査役員〜サクセッションプランのポイントと監査役員の留意点〜. 月刊監査役, (767), 4–14.
McNabb, B., Charan, R., & Carey, D. (2021). Talent, strategy, risk: How investors and boards are redefining TSR. Harvard Business Review Press.